「国の社会保障だけだと生きていけない」といわゆる老後の2000万円問題にもある通り、日本の社会保障の心細さは今では常識的なものになってきています。しかし、実際のところ、どこまで役に立つのか(立たないのか)、その具体的な内容までは理解をしていない人は多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは社会保障の代表格ともいえる年金制度について、それくらいの給付が受けられるのかを見ていきたいと思います。
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国民年金制度について
日本の20歳以上の方は等しく「国民(基礎)年金制度」に入っています。サラリーマンの方は「厚生年金」に加入しているといわれますが、厚生年金は国民年金の上乗せの年金であり、国民年金にも加入しているため、まずは国民年金に話を合わせます。国民年金の保険料は
1か月16,540円(令和2年度)
です。この毎月の支払いでどんな保障を私たちは得ているのかを見ていきたいと思います。
ⅰ)老齢基礎年金
老齢基礎年金は65歳を迎えると、最高で年間781,700円(令和2年度)を受け取ることができます。これは20歳から65歳までの間で480月納付したことが前提となっています。これをひと月当たりに換算すると1,628円/年。つまり
・ひと月当たり16,540円払う
⇒・老後に基礎年金からもらえる年収が1,628円増える 計算になります。
つまり10.15年間受け取り続ければ元が取れる計算です。
老齢年金をもらうためには10年間の受給資格期間が必要です。受給資格期間とは保険料を納付した期間や保険料が免除された期間、ざっくりいうと滞納したとみなされていない期間になります。逆に10年間に満ちていないと、そもそももらうことができずに払っていた金額そのものが水の泡となりますので、気を付けておいてください。
ⅱ)障害基礎年金
障害基礎年金は、厚労省が定める障害等級2級・1級に該当した場合に受け取ることができる年金です。
障害には
・外部障害(眼、聴覚、肢体(手足など)の障害など)
・精神障害(統合失調症、うつ病、認知障害、てんかん、知的障害、発達障害など)、
・内部障害(呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど)
と3種類に分かれており、障害の程度も厚労省のホームページで細かく記載がされております。
障害年金の受給が認定されると、老齢基礎年金の満額に相当する年間781,700円(令和2年度)が支給されます。また、18歳到達年度の末日(3月31日)までの子どもがいる場合、一人当たり224,900円(第3子以降は75,000円/人)が加算されます。
障害年金を受けるためには「初診日」の前日において
(1) 前々月までの公的年金の加入期間の2/3以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
(2)初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
のいずれかが要件となっています。
これは軽い雑学になりますが、なぜ「初診日の前日」になっているかというと、仮に「初診日」時点でこの要件をみられるとなると、病院に行ってその診断結果が「これは障害年金に該当する傷病に当たるかも」となった場合に、その日のうちに年金を滞納している日について全て追納し、受給要件を満たすということが誰でも可能になってしまうからです。これを防ぐために「初診日の前日」で見ることになっています。なので、いかに常に滞納しないで納めておくことが大切かお分かりいただけるかと思います。
ⅱ)遺族基礎年金
遺族基礎年金はその名の通り、ご本人が亡くなった際に遺族に対して支給される年金です。生命保険などでのいわゆる「死亡保障」としての側面がありますが、支給される対象が限られているのが、留意しておかなくてはならない事項になります。
支給対象となる方は
(1)子のある配偶者
(2)子
※上記の「子」はいずれかに限る
・18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子
・20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子
のみとなっており、つまりは「子」のいない方が亡くなった場合、配偶者の方がいらっしゃっても、その方が亡くなったことによる遺族基礎年金は支給がされません。
遺族年金が支給されるための要件は障害年金の要件にある「初診日」を「死亡日」に置き換えれば、遺族年金の支給要件になります。
遺族基礎年金の金額は障害基礎年金と同じく老齢基礎年金の満額に相当する年間781,700円(令和2年度)が支給されます。子の加算も同様に行われます。
以上、基礎年金について3つの給付についてみてみました。基本的には上記3つの保障に守られていると思っていただければ初期段階の理解はOKです。
そして、上記3つの基礎年金のほかに「厚生年金」という上乗せの年金があります。次のステップではこの「厚生年金」についてみていきます。
サラリーマンが加入している
「厚生年金」について
会社にお勤めのかたは「厚生年金保険料」として毎月の給与から天引きをされているかと思います。厚生年金は国民年金の上乗せとなっている保険という位置づけですので、厚生年金保険料を払っていることをもって国民年金の保険料も払っていることになります。
厚生年金保険はもらっている給与の額によって、その保険料も将来受け取れる年金(老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金)も違ってきますので、今回は月給が25万円の方の例をもって話を進めたいと思います。
また、厚生年金は平成15年3月と4月を境に計算方法が違いますが、ここではすべて平成15年4月以降である前提で話を進めます。
◎月給25万円の厚生年金の保険料
月給25万円の方の厚生年金保険料は23,790円となっています。
25万円から269,999円までは一律26万円とみなされますので、これに保険料率をかけて算出されます。
これをもとに厚生年金ではどんな保障があるのかを見ていきたいと思います。
ⅰ)老齢厚生年金
老齢厚生年金も基礎年金同様65歳を迎えると、もらえる年金です。計算式は、とにかく複雑なのですが、おおまかにいうと下記の通りです。
年金額 = 平均収入 × 5.481/1000 × 被保険者期間
ここから算出すると、ひと月当たり23,790円支払って、年金額は1か月加入するごとに1,425円増えていく計算です。払っている金額に対してストレートに割ると17年もらわないと元が取れない!!という計算になるのですが、この23,790円の中には国民年金保険料も払っていることになりますので、
ひと月払っている金額 23,790円
ひと月払うことで増えている年金額 厚年 1,425円+国年 1,628円=3,053円
となりますので、 8年もらえば元を取れるという形になります。
老齢厚生年金は月給が上がるにつれて保険料も上がりますので、
月給が50万円の方の場合
ひと月払っている金額 45,750円
ひと月払うことで増えている年金額 厚年 2,740円+国年 1,628円=4,368円
の通り、元を取るまで11年と、長くなる傾向があります。
ⅰ)障害厚生年金
障害厚生年金も先ほどの老齢厚生年金で出た
平均収入 × 5.481/1000 × 被保険者期間
この式で計算がなされます。障害状態は何歳でかかるかわからないため、被保険者期間については300か月(25年間)未満の場合は300か月とみなして計算がなされます。そのため、
月25万円の方、まだ300ヶ月加入していない方、が受けられる金額は、月収がずーと(平均なので)25万円だったとすると、
260,000 × 5.481/1000 × 300ヶ月 = 427,518円
の年金額が保障されているといえます。そして厚生年金は基礎年金も同時に加入しているとみなされるため、先ほどの781,700円(令和2年度)も加算して受け取ることができます。
また、障害基礎年金は「子」の人数によって加算がありましたが、障害厚生年金はその方に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに224,900円の加算がなされます。
ちなみに障害基礎年金は障害等級2級から支給がされますが、障害厚生年金は3級から支給されます。また障害等級3級に満たない場合も、障害手当金として年金額の2年分が一時金として支給されることがあります。
ⅰ)遺族厚生年金
先述の遺族基礎年金は「子」か「子のある配偶者」しか受給ができなかったのに対し、遺族厚生年金は
・妻
・子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)
・55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる。)
と受給ができる親族の幅が広いです。
年金額は亡くなられた方の
平均収入 × 5.481/1000 × 被保険者期間 × 3/4
となり、被保険者期間については障害厚生年金同様300か月の保障があります。
そして、先ほどの月収25万円の方がずーと(平均なので)月収25万円だったとすると、
260,000円 × 5.481/1000 × 300か月 × 3/4 = 320,638円
の年金額になります。
更に言うまでもなく、子のある配偶者、子(子とは18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の障害者に限る)は、遺族基礎年金も併せて受けられます。
以上、基礎年金とその上乗せの厚生年金の保障についてみてきました。
特に年金についていうと(特に老齢年金については)「損か得か」という観点から見てしまいがちですが、国の年金はそもそも加入するかしないかを選べないので、あまり考えてもしょうがないと思います。
むしろ、実際どれくらいもらえるのか、カバーできているのか、ご自身の将来のライフプランを作り上げ、必要なところ足りないところをご自身で埋めていけばよいのか、という観点から見ていくのが、上手な付き合い方と言えるでしょう。
【筆者プロフィール】
笠間 啓介
社会保険労務士
1987年生まれ、一橋大学社会学部卒。大学在学中に社会保険労務士の試験に合格、卒業後は都内の社会保険労務士事務所に勤務後、2016年にSHR社会保険労務士事務所(現OLCS社会保険労務士法人)を設立。現在は飲食業からIT業界まで幅広く100社以上の企業の労務管理に携わる。