少子化対策の実現に向けて

2023年1月30日の衆議院予算委員会で、首相は「異次元の少子化対策を実現したい」と表明されました。

皆さんもご存知の通り、日本の出生数は1949年の第1次ベビーブームには約270万人、1973年の第2次ベビーブームでは約209万人でしたが、2022年は79万9728人となり、1899年の統計開始以降初めて80万人を割り込み、過去最少となりました。

この少子化がもたらす影響は多岐にわたりますが、特に労働力の減少で経済規模が縮小することによって、年金などの社会保障制度の持続が難しくなる可能性があります。
また、少子化と合わせて高齢化問題もあり、介護職員の減少、さらには介護施設に入居できないと予測されています。

実は過去にも少子化対策の実現に向けて議論がされてきました。
2014年の少子化危機突破タスクフォースでは”複数の子ども世帯の負担軽減”ついて、2016年の結婚の希望を叶える環境整備では”男性の育休推進”について、2018年の少子化克服戦略会議では”出産費用の負担軽減”についてなど、様々な議論が行われました。
しかしながら、主に財源の問題があり、実現することができませんでした。

少子化対策は「2025年頃までがタイムリミット」?!

こども政策強化関係府省会議で話す京都大学大学院准教授の柴田さんがこう話されています。
なぜ2025年がタイムリミットなのかというと、2023年と2024年の出生数は少しずつ減少し、2025年からは20代の人口が倍速で減少する。結婚や出産する年代の人数がますます減る中、低い出生率のままだと更に急激な人口減少が進むということです。

また、子どもを持つことで経済的、身体的、心理的な負担が増し、幸福感が下がることを親のペナルティーと言いますが、この親ペナルティーを軽くしてあげることも必要だと提言されています。

こうした内容を踏まえ、児童手当の拡充や学費軽減と並行して雇用の安定や私生活と仕事の両立を支援する国や企業のフレックスタイム制、有給休暇、育休などの制度が拡充していくことがカギになります。

因みに2021年の出生率は1.30でしたが、政府は基本的な目標として、【希望出生率1.80】の実現を掲げています。出生の仮定だけ変化していくものとして、2030年に1.8に回復をすると、2040年に2.07になり、人口は9000万人弱で維持できるようになり、高齢化率(人口のうち高齢者が占める割合)も今に近い水準で維持できるという試算を2019年に出しています。

少子化対策を3年間で集中的に実施するために、適材適所に予算をつけ、様々な施策を実行することが非常に重要なポイントとなりそうです。

では、今回打ち出されました実現に向けてこれから議論・検討をしていく少子化対策のたたき台を見てまいりたいと思います。

―経済的支援強化―

⓵ 児童手当

■ 所得制限を撤廃

>>現在の児童手当制度の詳細はこちら
https://www8.cao.go.jp/shoushi/jidouteate/annai.html

■ 支援対象を高校卒業までに拡大

現在の支給対象は中学生までとなっている

■ 子ども複数

現在、所得制限はございますが、児童一人当たり月額で10,000円(3歳未満は15,000円)が支給されています。
また多子世帯への増額の方針もあり、第1子は月15,000円、第2子は30,000円、第3子以降は60,000円で検討をされていますが、確定には至っていません。
※2023年6月から具体的な内容が確定予定

➁ 出産費用

■ 保険適用を含めた支援

現在、正常分娩の場合は公的保険制度が適用されませんが、保険適用による3割の自己負担について一定額の補助する考えを示し、出産費用を公的保険制度の対象にすることを検討されています。
※2024年度以降で拡充時期は未定

■ その他の支援

出産・子育て応援交付金10万円、2023年4月から出産育児一時金50万円、低所得妊娠の初回産科受診料助成1万円は支援開始されています。

③ 保育サービス充実

■ 保育所

小学校入学前の子ども(0歳から5歳)の保護者について、保育所の利用には就労しているなど、保育園に空きがあるなど一定の要件はありますが、就業にかかわらず時間単位等で保育園を利用できる緩和政策が検討されています。

■ 保育士の配置

保育士1人に対して、1歳児は6人→5人、4歳児から5歳児は30人→25人へと改善することで、負担を減らし、質も高めるなどの改善についても検討をされています。
※2024年度以降で拡充時期は未定

④ 共働き世帯の制度面改革

■ 育児休業給付金

現在、最大で休業前の賃金の67%(手取りで約8割程度)が給付される育児休業給付金ですが、男女とも育休で男女ともに一定期間に育休を取った場合は8割程度(手取り10割相当)に引き上げる方針を検討されています。

■ 時短勤務

2歳未満の子をもつ親が時短勤務を選んだ場合も、時短前と手取り収入が変わることがないように給付の創設が検討されています。
※2024年度から3年間で具体化予定

⑤ 奨学金

■ 授業料後払い制度

大学など高等教育にかかる教育費負担の軽減策として、授業料後払い制度の創設が検討されています。在学中は国が授業料を立て替え、本人は卒業後、所得に応じて国に返す制度を2024年度から修士を対象に先行導入を予定しています。
この効果として、教育ローンを抱えることへの負担感や不安の軽減、またこれらによる利用回避を防止するうえで、所得連動型返済制度との組み合わせが有効とされています。

⑥ 医療費

■ 子どもの医療費助成に係る国保負担の軽減措置廃止と自治体による子ども医療費の助成を後押し

小学生以上の子どもがいる方が対象になりますが、現在、小学生入学前の乳幼児の医療費は公的保険と各自治体が実施しています。各自治体の負担割合は市区町村によって異なります。
政府は、不要な受診や医療費を抑制するため、小学生以上の児童の医療費助成をしている自治体に対し、補助金を減額していますが、この措置を撤廃し自治体による子どもの医療費助成を後押しする方針です。
※2024年度以降で拡充時期は未定

⑦ 住宅

■ 住宅にかかる費用支援・公営住宅やURの優先的入居

新婚や子育て世帯の方が、公営住宅やURに優先的に入居できる取組や長期固定低金利の住宅ローンの金利引き下げなど支援の拡充が検討されています。
※2024年度以降で拡充時期は未定

その他には、妊婦健診の助成制度や特定不妊治療費助成制度等の拡充が検討されています。
また、男性育休取得率については、2021年度は約14%でしたが、政府は2025年度には民間企業で
50%を目標にしています。

最後になりますが、一人でも多くの若い世代の結婚や出産の希望をかなえる【希望出生率1.8】の実現に向け、令和の時代にふさわしい環境を整備し、国民が結婚、妊娠・出産、子育てに希望を見出せるとともに、個人や男女が互いの生き方を尊重し、主体的な選択により、希望する時期に結婚でき、且つ希望するタイミングで希望する数の子どもを持てる社会をつくることが理想です。

そんな社会にするためには、社会で支える仕組みも大切であり、またその仕組みを安定して継続することも必要ではないでしょうか。
これからの日本を担い、社会全体の未来を作っていく世代は子どもであり、子どもの存在は社会の存続に欠かすことができないのだから。

今を変えれば過去も未来も変えられる!

【参考】厚生労働省 人口動態統計速報(令和4年(2022)12 月分) 報道発表資料
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2022/dl/202212_1.pdf