いきなりですが、2022年10月20日、円相場1ドル=150円台、1990年8月以来、約32年ぶりの円安水準の速報が流れ、皆さんは何を感じられたでしょうか?
FRB(連邦準備制理事会:米国の中央銀行制度の最高意思決定機関)が大幅な利上げを行う観測から円を売り、より利回りが見込める米ドルを買う動きが強まりました。
今年の初めは115円台でしたが、3月16日FRBはゼロ金利政策を解除、政策金利の0.25%引き上げる発表を行いました。そして、5月には0.5%、6月には0.75%、7月にも0.75%、そして9月にも0.75%と大幅な利上げを実行しており(政策金利は過去最高水準の3%~3.25%)、日本のバブル崩壊以来である150円台までになりました。
この円ドル為替の影響で、経済活動に悪影響を及ぼすのではと言われていますが、果たしてそうなのか?
一応、政府は必要な対応をとる態勢は常にできているとし、市場をけん制しています。
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金融政策の影響
さて、そもそも金融政策は景気や物価にどのように影響を及ぼすのか?を見てまいります。
一般的な経済活動に与える影響は、金利が下がると、金融機関は低い金利で資金を調達でききますので、企業や個人への貸出においても、金利を引き下げることができるようになります。
また、金融市場は互いに連動していますから、金融機関の貸出金利だけでなく、企業が社債発行などの形で市場から直接資金調達をする際の金利も低下します。そうすると、企業は運転資金や設備資金を調達しやすくなります。
さらに、個人においても、例えば住宅の購入のための資金を借りやすくなります。
こうして経済活動がより活発となり、それが景気を上向かせる方向に作用します。
これに伴って、物価に押し上げ圧力が働きます。このように景気を上向かせるために行われる金融政策は、金融緩和政策と呼ばれます。
一方、金利が上昇すると、金融機関は以前より高い金利で資金調達しなければなりません。企業や個人への貸出においても、金利を引き上げるようになります。
そうすると、企業や個人は、資金を借りにくくなり、経済活動が抑制されて、景気の過熱が抑えられることになります。
これに伴って、物価に押し下げ圧力が働くことになります。このように景気の過熱を抑えるために行われる金融政策は、金融引締め政策と呼ばれます。
円安の影響
次に、円安になるとどのような影響を及ぼすのか?
海外では日本製のものの価格が下がり、売れやすくなります。そのため、輸出関係では利益を得やすくなります。
また、外貨建ての資産を持っている方にとっては、資産価値が増えることになります。円安のタイミングで外貨建ての資産を円に交換すれば、外貨建ての資産を購入したときよりも多い円を得ることが可能です。
逆に原材料を輸入する際のコストが一段とかさむことが挙げられます。
ロシアのウクライナ侵攻以降、原油などのエネルギーや穀物など、原材料価格は高止まりしていますが、円安で輸入コストの上昇に拍車がかかれば、企業業績を圧迫することになり、家計にも影響が及ぶことになります。
皆さんもご存知のとおり、日本は沢山の品目を輸入に頼っています。
例えば、2021年の日本の輸入のもっとも大きい品目は、原油および粗油、LNG(液化天然ガス)などの「鉱物性燃料」です。主に発電や自動車などの燃料に使われており、特にエネルギー資源がとぼしい日本では、海外からの輸入に頼っている実情があります。
つまり、エネルギー資源の品目価格が上がれば、経済活動のコストも上がりますので、例えば、ガソリン価格、人件費や物(食品や製品等)、生活するために必要なものも、ほぼ全てのものの値段に転嫁しなければならなくなりますので、ものの値段があがり、生活への影響を及ぼすことになります。
この円安の影響における不況で不安に思ったり、ネガティブに感じる方も多いのではないでしょうか。
長く続いたデフレーションの為か、インフレーションを感じづらい部分もありますが、生活に直結しているスーパーなどの商品の値段は少しずつ値上がりをしています。
4月-6月の法人企業統計をみると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比17.6%の28兆3181億円で、前年を上回るのは6期連続で、利益額は過去最高になっています。
もちろん、原材料高や部品などの供給制限が重荷になっているが、経済全体をみると良くなっている事がわかります。
円安は悪いことなのか?
筆者が尊敬する経済学者の高橋洋一さん曰く、自国通貨安は近隣窮乏化政策※1であり、輸出関連を優遇して、輸入関連に少しペナルティを与えることにはなるが、国内では輸出関連のエクセントカンパニー※2が多く、中小企業には不利ですが、そこに恩恵を与えた方が実質国内総生産(GDP)が増え、輸出依存度とか関係なく、日本はおおよそ10%の円安で実質経済成長率は1%ぐらい引き上げているので、実は経済的に円安は非常に良いことであるとおっしゃっています。
※1 近隣窮乏化政策とは
関税の賦課や引上げ、その他の輸入制限、輸出補助金の交付、賃金の引下げ、為替レートの切下げなどによって、貿易収支を改善し、あるいは国内の雇用を拡大しようとする政策をいう。たとえば関税の賦課や引上げは、輸入を抑制し、国内の輸入代替財産業の需要を高め生産を刺激する。また輸出補助金の交付などの輸出振興策は、国内の輸出財産業の生産を増加させよう。賃金の引下げあるいは為替レートの切下げは、自国産業に有利に働くから、輸出財産業・輸入代替財産業の生産を増加させる。
※2 エクセレントカンパニーとは
独特の企業文化・組織文化をもち、きわめて収益力の高い超優良企業
今回、約32年ぶりに150円台の円安になりましたが、以前のバブル期である32年前の経済状況はどうだったのか?
・名目経済成長率は7.6%
・実質経済成長率は、4.9%
・失業率は2.1%
・インフレ率は3.1%
経済学的に文句がつけようがない成績(経済状況)であったのだが、バブル経済の不安を煽るような一部のメディア報道もあり、金融引き締め政策(土地・株の価格が上がったからと言って金融引き締めは間違い)を行ってしまった事に原因があり、この後続く、平成の大不況へと進んだのではないかと提唱されています。
アメリカの利上げ
ではなぜ、アメリカは利上げを行うのか?
答えは「リーマンショック後の景気が回復し、現在は景気が過熱しすぎており、金融引き締めを急ぐことで、記録的なインフレ状況を改善していく狙いがあります」。
リーマンショック以来、政策金利を0.25%にし、2015年まで維持してきました。
しかし当時のイエレンFBR議長は経済が予定通り改善を続けており、同年12月に0.5%まで引き上げられました。
その後も段階的に金利引き上げが実施されておりますが、トランプ前大統領の減税政策や、景気の先行きに明るい素材の提供や、原油など国際商品市場の上昇によりインフレ率が更に高まる見込みが強まった背景があります。
インフレ率の高まりは、通貨安の要因とも言え(インフレーション:物価上昇、貨幣下落)、先にも述べたように、通貨の価値が下がると会社の運転資金や設備投資に資金がいきわたり、株式や不動産などの投資に資産が流れ、値段が高騰していきます。
すると実態以上の価値になるので、景気が堅調でインフレ期待が高まれば、金融引き締めの観測も高まるのです。
ただ、世界の通貨、基軸通貨でもある米ドル、また経済、金融などあらゆる分野でも大国である米国が行うその利上げ後の懸念点として、様々ところで影響を及ぼすのではないかと話題となっていますが、資金の逆回転、2000年前後、ITバブル期に1999年から利上げを続けていた結果、相場が崩れました。
債務危機、グローバル経済の時代で、GAFAMなど名だたる企業が海外に進出していますが、資金調達方法として、金利が安い米ドルを調達して、金利が高い新興国に投資を行います。しかし利上げ後、借金をする際、今までより損をすることになると借り入れを見送ります。そうすると設備投資が少なくなり、生産性が横ばい、または低下することにつながります。
また、新興国の政府や企業の債務(米ドル債務)も米国金利上昇、ドル高・新興国通貨安が進めば、返済の負担はさらに膨らむことも懸念されます。
通貨危機、1994年メキシコ、1997年アジア、1998年ロシア、1999年ブラジル、1996年から2005年アルゼンチンなど、米国金利の上昇や高金利維持の場合は、新興国の資本流出にもつながりやすく、過去にも米国が高金利政策をかかげる局面で、新興国の通貨危機が繰り返されてきました。
身の丈以上に債務を膨らませた国の通貨が売り込まれ、ドル資金の調達が困難になるおそれがあります。
最後に
今回は円ドルの為替について、また米国の利上げについて触れました。
実体経済に合わせえて、日本、中国以外の国々は利上げに踏み切っています。(2022年11月時点)
米国の利上げが年末まで続くのでは?、また来年以降も円米ドルの為替相場については、急激に下がることがない?など様々な情報で溢れてかえっています。
この情報社会において、情報を精査することがもっとも重要であり、単にテレビの報道を鵜呑みにすることがないように改めて情報リテラシーの向上が求められる時代ではないでしょうか。
今を変えれば過去も未来も変えられる!!!
【参考サイト】
◆財務省
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/r4.4-6.pdf
◆高橋洋一チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=5-8xYAyw2p4
◆JFTCきっずサイト
https://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/item.html#:~:text=